- 海外転出届は任意ではなく、生活の本拠が海外へ移るなら届出義務があります。判断は市区町村がします
- 選べる場合、決め手は医療ではなく20歳からの国民年金です
- 残した場合にかかるのは国民健康保険料だけ。年2万〜3万円です
- 海外の大学は学生納付特例が使えません。代わりに納付猶予の対象になります。親の収入は審査に関係ありません
- 台湾の健康保険は居留証から6か月後。その間に30日を超えて出国すると数え直しです
- 扶養控除・マイナンバーカード・運転免許は、抜いても続けられます
「市役所から、留学中の住民票をどこにするのか確認を求められました。現住所のままで良いのでしょうか」
毎年届く質問です。調べると「1年以上なら抜くのが原則」と出てくる一方で、「抜くと保険が使えない」とも出てくる。答えが出ないまま窓口で決断を迫られます。
僕は台湾の4年間、住民票を抜きませんでした。それで困ったことは一度もありません。ただし正解はご家庭によって変わります。判断に必要な数字を全部出します。
住民票は、残しても抜いても大丈夫です
まず、よく誤解されている点をはっきりさせます。海外転出届の提出は任意ではありません。住民基本台帳法は「転出をする者は、あらかじめ届け出なければならない」と定めていて、正当な理由なく届け出ない場合は5万円以下の過料の対象になります。
ただし義務が生じるのは「転出をする者」、つまり生活の本拠が日本から海外へ移る人です。条文に「1年以上なら転出」とは書かれていません。あれは行政の実務上の目安で、実際の判断は生活の実態を見て市区町村が行います。日本学生支援機構も1年以上の留学は転出届を出すよう案内しています。
そのうえで、住民票を残したまま台湾で4年間を過ごす日本人留学生も大勢います。市役所から「どちらにしますか」と選択を求められただけなら残せますし、「1年以上なら出してください」と案内された場合は、その自治体があなたを「転出をする者」と判断しているので従うことになります。
問題は、どちらを選ぶかではありません。選んだ後の年金の手続きを知らずに放置している家庭が多いことです。
残した場合、かかるのは国民健康保険料だけです
金額は市区町村で違います。那覇市の2026年度なら、学生ひとり年22,872円。世帯の所得で7割・5割・2割の軽減がかかります。目安は年2万〜3万円です。
住民税は気にしなくて大丈夫です。前の年の収入に対してかかるものなので、収入のない学生は住民票があっても課税されません。
市役所の国民健康保険の窓口で「留学中も住民票を残した場合、年間いくらですか」と聞けば、その場で計算してもらえます。
20歳の誕生日だけは忘れないでください
住民票を残していると、20歳から国民年金への加入が義務になります。月17,920円、年215,040円(2026年度)。台湾にいても自動的に始まります。
ここで台湾の大学生は、学生納付特例が使えません。対象が日本の学校教育法にもとづく国内の学校に限られているからです。例外は文部科学大臣が指定した海外大学の日本分校だけで、台湾の大学は当てはまりません。
ただし、代わりが用意されています。
納付猶予制度です。20歳以上50歳未満が対象で、保険料の支払いを先送りできます。小田原市のように「日本に住民票を置いたまま海外の大学に通っている場合は、免除・猶予を申請してください」と明記している自治体もあります。
この制度の要点は、審査で本人と配偶者の収入しか見ないことです。全額免除は親の収入まで審査に入るので、親に収入があると通りません。納付猶予は親の収入を見ないため、収入のない留学生は所得の基準を満たします。基準は所得で67万円、アルバイトの給与収入なら年132万円までです。渡航前にアルバイトをしていても、この範囲なら問題ありません。
ひとつ正直にお伝えします。日本年金機構は、海外の大学に通う場合の納付猶予について明示していません。公式に書かれているのは「海外の大学等に留学した場合は学生納付特例を利用できない」ところまでです。制度の作り上は納付猶予の対象に入りますが、20歳を迎える前に市役所の国民年金の窓口で確認してください。
猶予中も障害基礎年金の対象であり続けます。保険料を納めていないのに保障は続く。ここが未加入との決定的な違いです。10年以内なら後から納めて、将来の年金額に反映させることもできます。
手続きは20歳を迎えた後、市役所の国民年金窓口へ。本人が台湾にいる間は親が代理でできます。「継続審査を希望する」と伝えれば、翌年からは自動審査になり、毎年行く必要がなくなります。

抜いた場合、年金は「選べる」ようになります
海外転出届を出すと、国民年金は任意加入に変わります。金額は残した場合と同じで、払うかどうかを選べます。
払わない期間は「合算対象期間」となり、受給資格の年数には入りますが、金額には反映されません。
注意点がひとつ。任意加入しないまま大きな事故や病気にあうと、障害基礎年金を受け取れません。20歳前の傷病に対する別制度もありますが、こちらは日本国内に住んでいることが条件で、海外にいる間は支給が止まります。

年2万円ちょっとで、年金の保障と一時帰国中の医療が付く。数字だけを見れば、残す選択の分がいいです。
台湾の健康保険は6か月後から
台湾の全民健康保険には留学生も加入します。保険料は月826元、学校を通して1学期分の4,956元をまとめて納めます。
ただし加入できるのは、居留証を受け取ってから6か月続けて台湾に住んだ後です。
ここに落とし穴があります。この期間に出国できるのは1回・30日以内まで。超えると数え直しです。夏休みに1か月半帰ると、加入が半年先に延びます。最初の半年だけは帰国の予定を慎重に組んでください。
その間は、大学が留学生向けの医療保険を一括で手配します(国立台湾大学で1学期2,670元)。無保険の期間は生じません。

住民票を残していれば、台湾でかかった医療費を日本の国民健康保険に請求できます(海外療養費)。病院で診療内容明細書と領収明細書をもらい、日本語訳を付けて市役所へ。支払いから2年以内、支給まで3〜4か月です。
抜いても困らないこと
親の扶養控除は続きます。居留証などの「留学ビザ等書類」と親族関係書類、送金関係書類を勤務先に出せば継続できます。19歳以上23歳未満なら63万円の控除です。
マイナンバーカードも使えます。2024年5月27日から国外での継続利用が可能になりました。転出届を出すときにカードを窓口へ持参してください。
運転免許も更新できます。一時帰国中の「期間前更新」ができ、失効しても海外滞在が理由なら3年以内は特例で取り直せます。
選挙は、抜いたほうが投票できます。在外選挙人登録の条件が「転出届を出していること」だからです。転出届と同じ日に選挙管理委員会の窓口で申請でき、台湾では日本台湾交流協会の台北・高雄事務所が窓口になります。
残したほうがいい家庭、抜いたほうがいい家庭
残したほうがいいのは、日本で定期的に通院している持病がある場合。一時帰国のたびに保険で診てもらえます。国民健康保険料は、この一点で元が取れます。年に何度も長く帰国する予定がある場合も同じです。
抜いたほうがいいのは、帰国の予定がほとんどない場合と、保険料の負担を減らしたい場合。20歳での任意加入をどうするかだけ、家族で決めておいてください。
なお、一時帰国のたびに住民票を戻す使い方はできません。生活の拠点が海外にある人の短期帰国では、転入届を受け付けない自治体がほとんどです。滞在期間を偽ると過料の対象になります。
出国前にやることリスト
住民票を残す場合
1. 市役所に「残します」と伝える
2. 国民健康保険の年額を確認する
3. 20歳になったら納付猶予を申請する(親が代理で可・「継続審査を希望する」と伝える)
4. 台湾で受診したら診療内容明細書と領収明細書をもらう
住民票を抜く場合
1. 市役所で海外転出届(出国日の14日前から当日まで)
2. マイナンバーカードを持参し、国外継続利用の手続き
3. 国民健康保険証(資格確認書)を返却
4. 同じ日に選挙管理委員会で在外選挙人名簿の申請
5. 20歳での任意加入を家族で決めておく
6. 歯医者と健康診断を済ませる
最後の歯医者は冗談ではありません。留学中に一番多いトラブルが歯です。
よくある質問
Q. 海外転出届はいつ出せばいいですか。
出国日の14日前から当日までです。「2週間前までに出さなければいけない」と誤解されがちですが、正しくは「14日前から出せる」です。
Q. 市役所に「1年以上なら転出届を」と言われました。断れますか。
4年間の学位留学は制度上はっきり1年以上に当たるので、従ってください。残す判断ができるのは、選択を求められた場合だけです。
Q. 日本と台湾、両方の保険に入ることになりませんか。
住民票を残せばその状態になります。台湾の健康保険は現地に住む人の義務なので避けられません。日本側は一時帰国用と考えてください。
Q. 20歳のとき、日本にいなくても手続きできますか。
できます。案内は住民票の住所に届き、親御さんが市役所で代理申請できます。
Q. 高校時代にアルバイトをしていました。納付猶予は使えますか。
使えます。基準は年収ではなく所得で見ます。年収80万円なら給与所得控除65万円を引いて所得15万円となり、基準を大きく下回ります。また判定に使うのは前年(1月から6月に申請する場合は前々年)の所得なので、20歳を迎えるころには高校時代の収入は対象から外れていることがほとんどです。
Q. 日本の銀行口座はどうなりますか。
持ち続けられます。ただし金融機関によっては海外転居の届け出が必要だったり、投資用口座に制限がかかったりします。渡航前に確認してください。
市役所で聞くのは2つだけです
「住民票を残した場合、国民健康保険料は年間いくらですか」と「20歳のとき、海外の大学に通っていても納付猶予は申請できますか」。この2つで、あなたの家庭の数字が出ます。あとは上の図と照らし合わせるだけです。
年金の猶予には追納の期限があります。知らずに数年が過ぎた家庭を何度も見てきました。渡航前の今、5分だけ時間を取ってください。
台湾留学101センターでは、LINEで無料相談を受けています。住民票や保険のような渡航前の手続きも相談できます。合格した後のほうが、分からないことは増えます。
渡航準備の全体像は出願から渡航までのロードマップ、費用は台湾留学の費用ガイド、親御さんの役割は保護者向けの記事にまとめています。
制度と金額は2026年8月時点のものです(保険料・年金額は2026年度)。国民健康保険料は市区町村ごとに異なります。手続きはお住まいの市区町村の窓口・年金事務所でご確認ください。




